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ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の「復活」

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ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団の「復活」

2011年のウィーン芸術週間のテーマは「マーラーとアメリカ」。参加団体/アーティストは様々にアメリカ作品を披露しますが、まさに「マーラーとアメリカ」を地でゆくMTT/SFSコンビの4公演は、音楽祭のハイライト(音楽祭の冊子にティルソン・トーマスはマーラーとアメリカに関する文章を寄せていました)。

音楽祭

最初の公演プログラムは、マーラーの交響曲第2番「復活」。

ティルソン・トーマスは今年に入ってから、ニュー・ワールド・センターのオープニング、ユーチューブ・シンフォニー・オーケストラ、トマシェフスキーのフィルム制作とビッグ・プロジェクトを無事故で体調をくずすこともなく、彼にしかできない成果をあげてきました。それだけでも驚異的なのに、ますます波に乗っている様子。

これらのプロジェクトはプロデューサー的要素が強かったので、音楽だけやっているMTTを見るのは久しぶり。最初に訪れたプラハでの2公演は(プラハではMTTは人気があることもあり)大成功だったとのことですが、ウィーンでの成否やいかに。

マーラー 交響曲第2番「復活」

出だしの低弦から集中力と鮮烈さがかなりのインパクト。付点のリズムもいつもながら非常にMTTらしいもの。

とにかくあらゆる要素に対して、微に入り細に入り表現がつけられています。聴いた瞬間は、「おー、こんなことをやっている」と思うのですが、あまりにたくさんありすぎて記憶力の容量を超えてしまいました。

特徴を挙げると、小さな音から最大音量のレンジがものすごく広くてスケール感があること、一つひとつの表現にこれ以上できないくらいの磨きがかかっていること、歌い上げる部分をたっぷりと聴かせること、バランスにこだわっていること。

ティルソン・トーマスは基本王道をゆくアプローチで、保守的うるさ方にケチをつけられる可能性がありそうなことは極力やらない(でもそこはMTTだからときどきしっぽはちらっと見え隠れする)。実に堂々とした演奏でした。

ホールの残響がもう少し長くない方が、ストップや空を切るかのように音を切る部分の効果がより出るように感じましたが、まあそれは仕方ない。

印象に残っている部分をあげると、1楽章再現部~終わりの部分。弦の歌い上げと構成が秀逸。2楽章は遅めのテンポでとにかくエレガントな表現にこだわっていました。最初に戻るピッツィカートの部分が特に美しかったです。3楽章は快調に前へ前へ進んでいく。劇的な展開も練られていました。4楽章アルトのカタリナ・カルネウスは重量がある声ではないのですが、オーケストラとのアンサンブルはきっちりなされていました。

そして今日一番こだわりを感じたのは5楽章。昨年のカーネギーホール公演の感想にも書きましたが、舞台裏で演奏するメンバーがすごい。最初の部分の遠近感。そして先に進んで打楽器が入ってトランペットが奏でる部分。遠くから全く種類の違う音楽が聞こえてくる組み合わせの妙が浮かび上がっていました。これはゲヴァントハウスで聴いたシャイーがただドアを開けて後ろで演奏していただけだったこともあり、とても印象に残りました。

合唱はWiener Singakademie。今回のツアーでは、それぞれ行った先々の合唱団と共演することになっています。人数はゲヴァントハウスと比較すると三分の一くらいですが、遅いテンポでじっくり聴かせるという難易度の高いコーラスを見事に披露していました。

合唱が入るところから、ティルソン・トーマスは指揮棒なしで振り、シーン、、、とした空間に声だけが響くみたいな世界をかもし出していました。ソプラノはローラ・クレイコムで盤石。

金管のコラールは文句なしに決まっていました。輝きがあってバランスも響きも充実。

最後は文字通り“高らか”に歌いあげられ、たっぷりとしたテンポで非常にスケールとスペースを感じさせるものでした。

オーケストラの残響が消えたとき、会場がシーンとなった。

このままずっとシーンとしているのかな?というくらい(復活の公演でシーンとなるのは初めて)。その後大ブラボー。

アメリカン・オーケストラの最前線とはどういうものか?イマドキのマーラー演奏とはいかなるものか?を提示した演奏だったと思います。

昨年カーネギーホールでこの曲を聴いたときは、もうこれ以上の演奏はないのではないかと思いましたが、また違った視点の設定もあって、やりようはいくらでもあるものなのだと知りびっくり。

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ウィーン公演は大成功でスタート。次はウィーン楽派のプログラム。2日目のプログラムはテッちゃん(テツラフのことをうちではこう呼んでいる)にかかっている。がんばれ。

(2011.5.21)

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