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サンフランシスコ交響楽団のストライキが終結して~総括~

サンフランシスコ交響楽団のストライキが終結して~総括~

4月14日サンフランシスコ交響楽団では楽団員の組合と結ぶ26ヶ月間の新しい契約が承認され、18日間に及んだ楽団員のストライキ騒動は正式に終結しました。

そのニュースから1週間、終わってみれば、あんなに心配したのは何だったのかというくらい「起きるべくして起こったことであり、これがベストであった」と思える。しかもMTTに至っては、SFSの東海岸ツアーがキャンセルになった後、ウィーン・フィルと出演したロンドンのサウスバンクの「The Rest is Noise」フェスティバルでの演奏をロンドンの評論家が絶賛。SFSのストライキのおかげで余裕ができ、万全の体制で臨めたことの成果とも言え、まさに禍福はあざなえる縄のごとし(話は脱線しますが、称賛された理由は、ブラームスがシェーンベルクに与えたインスピレーションに光を当て、そこから逆にブラームスの進歩性が浮かび上がるというプログラミング。そしてウィーン・フィルのメンバーがMTTの意図を理解し、本領を発揮した演奏で応えてくれたことによる)。

最初にサンフランシスコ交響楽団のストライキのニュースを聞いたとき、私を含め多くの人は「楽団が最高の状態のときになぜストライキ?」という反応でした。でも「最高だからストライキ」だったのです。

彼らはこの10年間大きな目標に向かって進んできました。それはキーピング・スコア・プロジェクトであり、マーラーのレコーディング・プロジェクトであり、2011-12年の楽団の創立100周年でした。それらが全て達成され、次に楽団がどこに向かって何をするのか?という新しいステージに立ったとき、これまで突っ走ってきた中で積もっていた不満や、方向性に対する認識のズレなどの問題点が、労働条件(=ミュージシャンの貢献に対する評価)をめぐるストライキという形をとって表面化したのでしょう。

だから何らかの形で必ず直面しなければならない問題だったのだと思います。

労使紛争の終結にあたり、プレジデントのサクラコ・フィッシャー氏は、楽団をより素晴らしい未来へ進めるためには“ビジョンの共有”と“真のパートナーシップ”が欠かせないことを今回の件は示しているというコメントを出していました。これを機に楽団内のコミュニケーションを改善するための対策もとられるとのこと。

新しい契約の概要について、詳しくはミュージシャンの声明をご覧いただきたいのですが、かなりミュージシャン側が勝ち取った内容となっています。彼らの声明を見ると、多くのオーケストラにおいてリーマン・ショック後、景気後退に端を発した理由によって給与削減をはじめとするミュージシャンの待遇の切り下げが行われている。そうしたことがなし崩し的に行われる状況に一石を投じたいという強い思い。そして今の楽団員の待遇は、過去先人たちが非常に多くの時間と労力を投じてやっと獲得したものであるから、それを安易に手放してはいけないという思いが強く伝わってきます。

他方、一度制度を作ってしまうと、それを変えるのは容易ではない難しさもあらためて痛感しました(だからフィラ管は法的整理を選んだ)。今回ストライキが大きな話題になったことで、楽団員の給与水準や年金・健康保険といった福利厚生条件が報道され、一般の中間所得層から見たら夢のような好条件であるにもかかわらず、それでも足りないと要求していることに不快感を示す意見も多数見られました。

民間からの寄付で運営される非営利団体が、高負担である自前の年金制度や健康保険制度を維持・運営しながら、花形ミュージシャンを抱え、毎シーズンの公演をこなして教育活動も展開する。アメオケの仕組みは長所も短所も大きくて本当に大変。

労使紛争収束後もミュージシャン側は、まだ言い出したらきりがないくらい不満が残っているようですが、一日も早く新しい協力体制が築かれることを祈っています。やはりサンフランシスコ交響楽団には、未来に向けたチャレンジをしている姿を見せてほしい。

なおサンフランシスコ交響楽団のミュージシャンは、まだ労使紛争が解決していないミネソタのミュージシャンを応援するためのコンサートを4月29日に開催します。

 

サンフランシスコ交響楽団の楽団員の声明
楽団のプレスリリース
ミネソタ応援コンサートについて

(2013.4.21)

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